
【第1話】住み込みと、木を読む5年間(修行編)
家づくりにおいて、図面を描くのも設計ですが、それを現場で実際の「形」にするのは大工の「手」と「目」です。
最近では、工場で一定の品質に加工された「集成材」を現場で組み立てる建築も増えました。もちろんそれにも良さがあります。しかし、自然の木をそのまま使う「無垢材(むくざい)」を扱うとなると、話はまったく変わってきます。
今回は、昭和の時代から脈々と続く、無垢材と向き合う大工の修行のリアルなストーリーをお話ししたいと思います。
朝早くから夜遅くまで。親方のもとでの「住み込み生活」
大工の道は、親方の元への弟子入りから始まります。昭和の時代、その多くは親方の家に寝食をともにする「住み込み」でした。期間にしておおよそ5年。この期間は「年季(ねんき)」と呼ばれます。
朝は誰よりも早く起きて現場の準備をし、夜は遅くまで道具の手入れをする。ただ技術を習得するだけでなく、親方の立ち振る舞いや現場への向き合い方、職人としての生き方そのものを、生活のすべてを通して体に染み込ませていく5年間です。
腰袋を下げて現場の掃除や資材運びをしながら、仮留めや簡単な手伝いを通して、まずは現場の空気と手元を覚えていきます。
年輪を見れば、木の「表と裏」がわかる
均質で反りにくい集成材と違い、無垢材は「生きもの」です。一本一本、育った環境も違えば、乾燥したときに曲がる方向も違います。見習いの大工が徹底して叩き込まれるのが、木材の「年輪」を見てクセを見抜くことです。
木には、外側の「木表(きおもて)」と、芯に近い「木裏(きうら)」があります。木は乾燥すると必ず木表側に反るという性質があります。大工は材木の切り口にある年輪を一目見て、
「この木はどっちに反りたがっているか」
を瞬時に判断し、水がかかる場所や柱の向きに合わせて使い分けていきます。
さらに、木特有の「曲がり」すらもただ弾くのではなく、その曲がりをあえて梁(ハリ)などの構造の強みに活かす。
「木のクセに喧嘩を売らず、クセをうまく利用して家を頑丈にする」
図面通りに切って貼るだけでは絶対にできないこの判断力こそが、毎日無垢材に触れ、失敗と指導を繰り返しながら培われていく大工の目です。
5年経っても、まだ「スタートライン」
毎日作業が終わればノミやカンナの刃を研ぎ、指先の感覚で「真の切れ味」を覚える。そうして5年の年季を明ける頃には、道具も一通り扱えるようになり、職人としての足腰はしっかりと出来上がります。
しかし、自分の親方のやり方を叩き込んだこの5年を終えても、実は「まだ一人前へのスタートラインに立ったばかり」です。
親方の元を離れ、他の現場や違う構造、さまざまな納まり(施工方法)に対応できるようになるには、ここからさらに自分の腕を試す「武者修行」の期間が必要になります。
(第2話へ続く)







