
「V2H」をずっと注視してきたからこそ感じていた「まだ今じゃない」
実は数年前、「V2H(Vehicle to Home:車から家へ給電する仕組み)」という言葉が世に出始めた当初から、私は住宅のプロとして非常に敏感に反応し、その可能性に注目していました。
しかし、当時は「コンセプトは素晴らしいが、コスト、インフラ、そして車両側の選択肢を考えると、まだ暮らしの標準として提案できる時期(今)ではない」という感触を持っていたのも事実です。むやみに新しいものに飛びつくのではなく、熟成の時を待つ必要がありました。
それから数年が経ち、世の中の情勢は大きく変わりました。
物価高・ガソリン高と、若い世代の選択肢の変化
今、私たちは激しい物価高やエネルギー価格(ガソリン代・電気代)の高騰という切実な問題に直面しています。その中で、多くのご家庭が日々の固定費や移動にかかるコストを見直し始めています。
同時に、国の補助金制度も整い、これまで「ファミリーカーといえばミニバン一択」だった若い世代の視線が、自然とEVへと向き始めています。充電スポットなどのインフラも街中に整い始め、かつては遠い存在だったEVが、日々の移動コストを抑える「現実的な暮らしの選択肢」として一気に手元に引き寄せられてきました。
「条件が揃った今」だからこそ、自分の足で確かめに行った
V2HやEVを何年も前から追ってきた人間として、「あらゆる条件が重なり、技術も情勢も熟した今、実際の乗り味や完成度はどうなっているのか?」をどうしても自分の目と体で確かめる必要がありました。それが、今回テスラ・モデルYの試乗に向かった一番の理由です。
実際に触れてみて感じたのは、かつて感じていた「先進的だが少し遠い存在」ではなく、足回りの熟成や静粛性、操作性の向上など、絶え間ない改良が施された「今すぐ日常に乗れる高い完成度」でした。
そして室内に入った瞬間のあの「引き算の美学」。余計なボタンを一切排除し、シンプルな空間と景色だけを残しながら、裏では先進機能がスマートに支えている。この空間設計の思想は、これからの住宅デザイン(ノイズを削ぎ落とし、本質的な豊かさを残す住まい)にもそのまま通じるものがありました。
電池の進化と、日本全土に広がる「巨大なエネルギーネットワーク」
今や車に積まれているバッテリーは、単なる燃料タンクではありません。
今後、バッテリーの素材や技術がさらに進化し、より安全で、大容量かつ長寿命な電池が普及していけば、移動の利便性だけでなく「防災や安全」のレベルが次元違いに跳ね上がります。万が一の停電時にも、我が家が数日〜数週間にわたって普段通りの生活を送れる安心感が手に入ります。
そして、これを「1軒の家」「1台の車」という小さな規模だけで考えていては、本当の価値は見えてきません。
もし、この安全で大容量なバッテリーを積んだEVが日本全土に何百万台と広がったらどうでしょう。それは日本全体が巨大な蓄電ネットワークで覆われることを意味します。個々の小さなエネルギーが集まって社会全体の大きなエネルギーとなり、国全体の暮らしや防災の基盤を支える時代がやってくるのです。
視野を全体規模に広げたとき、世界観は一変します。そうなれば、当然私たち建築のつくり手が届ける「家」のあり方や設計思想も、今までとは全く違うものになっていきます。
課題の過渡期を超えて、社会と家が調和する「栄え時」へ
もちろん、現時点では充電インフラの混雑や充電時間など、過渡期ならではの課題もあります。しかし、かつてガソリンスタンドが全国に広がったように、急速充電インフラが網の目のように拡充し、技術革新によって充電時間が短縮されれば、渋滞や待ち時間も過去のものになっていくはずです。
さらに目を広げれば、将来的な核融合発電をはじめとする次世代エネルギー技術の研究・開発も進んでいます。国全体のエネルギー問題が根本から解決に向かい、安価でクリーンな電力が社会全体に行き渡る未来も、決して夢物語ではありません。
「自宅で生み出すエネルギー」と「社会全体の公共エネルギーインフラ」が真に調和し、誰もがコストや災害に怯えることなく豊かに暮らせる時代。
今始まっているEVや太陽光の普及は、その壮大な未来へ向けた「最初の大切な一歩」です。目の前の小さな流行を追うのではなく、この社会全体の変化と技術の熟成を見据えながら、これからも住まいのつくり手として、未来の暮らしに本質的に役に立つ提案を続けていきたいと思います。







